はじめに:認定取得は「安心」だけではない?
2026年12月の施行に向け、準備が本格化している「日本版DBS(こども性暴力防止法)」。 学校や保育所が「義務対象事業者」として法律でシステム利用が強制されるのに対し、学習塾やスポーツクラブ、認可外保育施設などは、自らの意思でシステムを利用する「認定」を受けるかどうかを選択できる「認定対象事業者(任意)」に位置付けられています。
しかし、「認定を受ければ安心」という単純な話ではありません。そこには相応の「義務」と「リスク」も伴います。
本記事では、こども家庭庁のガイドラインに基づき、自社にとって認定取得が本当にプラスになるのかを判断するための材料と、誰が確認の対象になるかを決める最重要キーワード「支配性」について解説します。
1. 認定を受ける「4つのメリット」
認定対象事業者は、国(こども家庭庁)に申請を行い、「学校設置者等と同等の安全確保措置を講じている」と認められることで、認定事業者等としてシステムを利用できるようになります。
- ① 「認定事業者マーク(こまもろうマーク)」による信頼の可視化 認定を受けた事業者は、国が定めた表示(こまもろうマーク)を、店舗の入り口、ウェブサイト、パンフレットや求人広告などに掲示できるようになります。保護者が事業者を選ぶ際、「こどもの安全を第一に考え、性犯罪歴をチェックしている」という事実は、非常に強力な安心材料となります。
- ② 確実な特定性犯罪前科の確認が可能になる 認定を受けなければ、行政に対して従業員の犯歴を照会することはできません。「面接での自己申告」や「賞罰欄」だけでは見抜けない、法務省の正確なデータに基づいた特定性犯罪前科の確認ができるようになります。
- ③ 採用時のミスマッチとリスク回避 あらかじめ募集要項等に「特定性犯罪前科がないこと」を明示し、認定事業者として犯罪事実確認を行う旨を伝えることで、過去に問題を起こした人物の応募を未然に防ぐ「抑止効果」が期待できます。
- ④ 社会的責任(ガバナンス)の証明 認定を受けるためには、対象業務従事者に対する研修の実施や相談窓口の設置など、日常的な「安全確保措置」を実施していることが求められます。認定プロセス自体が、組織全体のコンプライアンス向上に繋がります。
2. 認定に伴う「3つのデメリット・義務」
メリットの裏側には、事業者側が背負わなければならない「重み」があります。
3. 誰が確認対象になる? 最重要指標「支配性」とは
認定を取得した場合、自社の誰が「対象業務従事者(犯罪事実確認の対象)」になるのでしょうか。日本版DBSでは、単に「こどもがいる場所にいる」だけでは対象になりません。 以下の「3要件」をすべて満たす業務に従事する者が確認対象となります。
この中でも、立場の差から生じる心理的な支配を未然に防ぐための「支配性」が大きな分かれ目となります。
【職種別】支配性の「あり・なし」判定例
ガイドラインで示されている職種別の具体例は以下の通りです。
| 職種 | 🔴 あり(対象になる可能性高) | 🔵 なし(対象外) |
| 事務職員・受付 | 事務作業が中心でも、保護者の面談中に別室で児童の面倒を見るなど、日常的な対応業務の中で一対一で接触することが想定される。 | 外部に開かれた受付スペースでの応対が中心で、児童との接触がほとんど想定されない。 |
| 調理員 | 業務上の食育指導や、給食の準備・片付け等の際の会話を通じて接触することが想定される。 | 厨房内での調理業務のみを行い、児童との接触が想定されない。 |
| 清掃員 | 教育、保育等を行っている時間に、日常的に児童と会話等を通じて接触する機会がある。 | 児童等がいない時間帯に清掃を行い、接触がほとんど想定されない。 |
| 医師・嘱託医 | 施設内の診察室等で、年に複数回継続して個別診察や健康相談等の業務を行っている。 | 年1回の定期的な健康診断のみで、児童等との接触が一時的かつ常に他の職員の同席が想定される。 |
「ボランティア」や「実習生」でも支配性は生じる 雇用形態は関係ありません。無償のボランティアや実習生であっても、業務内容が「指導や交流」等であれば、支配性があるとみなされます。
「1日だけのゲスト」は対象外 学校に1日だけ講演に来るゲストスピーカーなどは、こどもと一定の接触はあっても、継続性や閉鎖性を満たさないため、確認対象外となります。
まとめ:「役割」ではなく「実態」で見よう
認定制度は、事務的な負担やリスクが伴いますが、それを上回る「信頼」という資産を得られる「安全のパスポート」です。
そして、「誰が対象になるか」の判定で大切なのは、事務員や清掃員といった「肩書き」ではなく、「その人がこどもとどのような密度で接触するか」という実態です。自社の業務が「3要件」を満たしており、保護者からのニーズが高いと考えられるならば、前述のデメリットを踏まえた上で、認定取得に向けた体制整備を進めていきましょう。
- Q個人でピアノ教室や学習塾をひらいていますが、認定を受けることはできますか?
- A
原則として認定を受けることはできません。国のガイドラインでは、認定の要件として「指導者が3人以上いること」や「こどもの居宅以外(事業者が用意した場所)で行うこと」などが定められています。そのため、指導者が1人だけの個人教室や、訪問型の家庭教師などは現在の制度では対象外となります。
- Q認定を受けたら、事務員や運転手など「すべての従業員」をチェックしなければなりませんか?
- A
いいえ、「すべての従業員」ではありません。記事内で解説した「3要件(支配性・継続性・閉鎖性)」をすべて満たす業務に従事するスタッフのみが対象となります。ただし、「要件を満たすのに、手間だからこのアルバイトはチェックしない」というような恣意的な運用は法令違反となるため注意が必要です。
- Q認定を受けない(申請しない)場合、学習塾やスポーツクラブに罰則はありますか?
- A
学習塾などの「民間事業者」に対する認定制度はあくまで任意であるため、認定を受けないことによる法的な罰則やペナルティはありません。しかし、制度が周知されるにつれ、保護者の間で「あの塾は認定マーク(こまもろうマーク)がない=安全対策が不十分だ」と認識されることによる、生徒離れなどのビジネス上のリスクは考慮しておく必要があります。
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