序章:義務対象事業者が直面する「前例のない事務負荷」
令和8年(2026年)12月25日に施行が予定されている「こども性暴力防止法」(日本版DBS)。この法律は、学校設置者等(公立・私立の学校、認可保育所、児童福祉施設等)に対し、児童と接する教員や指導員などについて特定性犯罪歴の有無を確認し、性暴力防止のための各種措置を講じることを義務化します。
この義務の履行に伴い、対象事業者が実施しなければならない事務作業は、従来の学校・施設運営の範疇を超え、法務、労務、情報セキュリティにわたる、前例のないほどの複雑かつ厳格なものとなります。
行政書士は、この膨大で専門的な事務作業をクライアントである事業者に代わって整理・構築し、法令違反リスクを軽減する「安全管理体制構築のプロフェッショナル」として、今こそその役割を果たすべきです。
本稿では、義務対象事業者が履行しなければならない事務作業を5つの柱に分類し、行政書士がどのようにサポートできるのかを具体的に解説します。
義務対象事業者にのしかかる5つの事務
📂 ① 事前準備: 規程作成、GビズID取得、対象者特定
💻 ② 申請実務: システム操作、戸籍情報の提出依頼
🛡️ ③ 安全確保: 面談、研修、相談窓口の設置
🔐 ④ 情報管理: 閲覧ログ記録、5年保存・30日廃棄
📢 ⑤ 行政報告: 年1回の定期報告、漏洩時の緊急報告
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第1章:施行前の「事前準備」と「体制構築」に関する事務
法律の施行を待たずに、事業者が速やかに着手すべき事務作業が事前準備です。これは、主に文書作成とシステム基盤の整備から成り立ちます。
1. 服務規律と対象者の特定(人事・労務支援)
犯罪事実確認を円滑に進めるためには、従事者全員の理解と協力が不可欠です。
• 服務規律等の整備と周知: 児童対象性暴力等や不適切な行為の範囲を明確にし、これらを行った場合の報告義務や懲戒事由について、就業規則などの文書に定め、従事者に周知します。
• 対象業務従事者の特定と通知: 法が定める「支配性、継続性、閉鎖性」の3要件に基づき、犯罪事実確認の対象となる職種・従事者の範囲を具体的に特定します。 行政書士は、各職種の業務内容をヒアリングし、「対象となる/ならない従事者の具体例」のガイドラインを参照しながら、この特定作業を支援します。
2. システム基盤と管理体制の整備(DX・法務支援)
犯罪事実確認の申請や記録管理は、基本的にオンラインシステムを通じて行われます。
• システムアカウントの取得と整備: 事業者向けの共通認証システムであるGビズIDの取得を行い、こども性暴力防止法関連システムへの事業者アカウント登録を完了させます。
• 管理責任者の設置: 犯罪事実確認記録等(特定性犯罪歴の有無に関する極めて機微な情報)の管理を統括する管理責任者を設置します。
• 情報管理規程の策定と提出: 犯罪事実確認記録等を適正に管理するための情報管理規程を策定し、初回の交付申請を行う前までにこども家庭庁に提出する義務があります。これは、行政書士が専門知識を発揮して作成すべき、極めて重要な法定文書です。

「『情報管理規程』の作成は、プロにお任せください。こども家庭庁の基準を満たす規程を、貴社の実情に合わせてオーダーメイドで作成します。」
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第2章:DBS制度の核心「犯罪事実確認」に関する事務
新規採用者や現職者について、特定性犯罪歴の有無を確認するための申請手続きです。これらの事務の多くは、こども性暴力防止法関連システムを通じてオンラインで実施されます。
1. 申請手続きと添付書類の実務
• 交付申請の実施: 対象業務に従事させようとする者について、犯罪事実確認書の交付をこども家庭庁に申請します。
• 申請書への必要事項の記載: 申請従事者の氏名、業務内容、従事予定日、対象事業者の情報など、内閣府令で定める事項を正確に記載します。
• 雇用契約書等の提出: 申請従事者を業務に従事させることを証する書類(内定通知書、雇用契約書、辞令等の写し)を添付します。
2. 本人特定情報の提出と「いとま特例」の管理
クライアントが最も戸惑うのが、従事者本人に戸籍情報等を国に提出させるという、前例のない手続きです。
• 従事者への戸籍情報提出の依頼: 申請従事者に対し、本人特定情報(戸籍・除籍情報等)を国に提出させる事務が発生します。原則として本人がシステムを通じて直接提出しますが、本人が希望する場合は事業者が経由して提出することも可能です。行政書士は、この複雑な手続について、従事者に対する適切な説明文書の作成や指導を支援します。
• 「いとま特例」の適切な管理: やむを得ない事情(例:急な欠員、震災等)により従事開始後に確認を行う場合(いとま特例)は、その「やむを得ない事情」を証する書類等を保存し、従事者に対し必要な措置(原則1対1にさせない等)を書面で説明する義務が発生します。

「複雑な戸籍情報の提出も、従業員様向けの説明資料をご用意し、スムーズな提出をサポートします。」
第3章:日々の業務に組み込む「安全確保措置」に関する事務
DBS制度は、前科の確認だけでなく、「初犯を防止する」ための継続的な体制の構築を求めます。これは、児童対象性暴力等対処規程に基づき、日常の業務に組み込まれる事務作業です。
1. 防止措置・調査・保護支援の事務
• 防止措置の実施: 「性暴力が行われるおそれがある」と認められる場合、その内容に応じて必要な防止措置(原則として特定性犯罪事実該当者を対象業務に従事させないための配置転換等)を講じる事務が発生します。
• 調査・事実の有無の評価: 性暴力が行われた疑いがある場合、公正かつ中立な調査を実施し、事実の有無の評価を行います。この調査体制の設計や、専門家(弁護士、心理士)との連携は行政書士の支援領域です。
2. 早期把握・相談・研修の事務
• 早期把握措置の実施: 児童等に対する日常観察、および発達段階に応じた定期的な面談・アンケートを実施する事務が発生します。
• 相談体制の整備: 事業者内部で相談員の選任・窓口の設置を行い、外部の相談窓口を周知する事務があります。
• 研修の実施と記録: 従事者に対し、性暴力防止、不適切な行為の範囲、相談・報告体制などを含む研修を定期的に受講させる義務があります。研修を実施した事実の記録作成も必須の事務です。
第4章:最重要かつ最も複雑な「情報管理措置」に関する事務
犯罪事実確認記録等(犯歴情報)は、「極めて機微な情報」であるため、その管理は最も厳格であり、違反時には罰則が適用されます。行政書士は、クライアントがこの厳格な管理義務を履行するための体制を構築しなければなりません。
1. 記録・帳簿作成の事務
• 情報管理規程の遵守: 策定した情報管理規程(組織的、人的、物理的、技術的措置を含む)を遵守する事務が発生します。
• 取扱記録の作成: 犯罪事実確認記録等の閲覧、作成、持ち運び、廃棄・消去の状況などについて、システムログ等に基づき取扱記録を作成し、責任者が定期的に確認します。
• 犯罪事実確認書管理簿の作成・保存: 犯罪事実確認の実施状況を記載した帳簿(犯罪事実確認書管理簿)を、電子情報処理組織に記録する方法により作成し、作成した日の翌日から起算して5年を経過する日の属する年度の末日まで保存する義務があります。
2. 厳格な情報利用制限と廃棄の事務
• 目的外利用・第三者提供の禁止: 犯罪事実確認記録等を、犯罪事実確認または防止措置の目的以外で利用・提供しない事務の徹底が必要です。
• 犯罪事実確認記録等の廃棄・消去: 以下の期限までに、容易に復元できない形にして、廃棄および消去する義務があります。
ここが最大のリスクポイント
犯歴情報は「極めて機微な個人情報」です。
- **「作成翌日から5年間」**の保存義務
- **「退職から30日以内」**の廃棄・消去義務
これらを1日でも過ぎたり、誤って管理したりすると、法令違反として処罰の対象となり得ます。エクセルや紙での管理では限界がある領域です。
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第5章:行政への「報告・監督」対応に関する事務
事業者は、こども家庭庁に対し、定期的な報告や、緊急時の報告を行う義務を負います。
1. 定期報告と変更届出の事務
• 定期報告の実施(国へ): 犯罪事実確認の実施状況および情報管理措置の実施状況について、定期的に(年に1回)内閣総理大臣(こども家庭庁)に報告します(原則システムを通じて行う)。事業者負担軽減のため、帳簿や定期報告の一部事項はシステム上で自動生成されることが想定されています。
• 情報管理規程の変更届: 情報管理規程を変更する場合(軽微な変更を除く)、あらかじめ内閣総理大臣に届け出る事務が発生します。
2. 緊急時・監督時の報告事務
• 情報漏えい等の報告(国へ): 犯罪事実確認記録等の漏えい、滅失、毀損、または法に違反した第三者提供などの重大な事態が生じた場合、直ちにこども家庭庁に報告する義務があります。迅速な対応のための緊急連絡体制の構築が必須です。
• 所轄庁への報告: 各業法に基づき、所轄庁(都道府県等)が求める犯罪事実確認や安全確保措置の実施状況について、必要に応じて報告を行う事務も発生します。
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まとめ:行政書士は「DBS事務の専門窓口」として事業者を支える
「こども性暴力防止法」は、単なる性犯罪歴の確認に留まらず、事業者に「1.体制整備」「2.申請実務」「3.日常の安全確保」「4.厳格な情報管理」「5.行政報告」という、5つの柱にわたる広範かつ厳格な事務作業を義務付けます。
これらの事務は、専門性が高く、特に情報管理(帳簿作成や廃棄)については、違反時に刑事罰や認定取消し(民間事業者)のリスクが伴います。
行政書士は、これらの事務の全容を把握し、クライアントに代わって情報管理規程や対処規程の策定、各種申請や報告の代行、そして体制構築のための指導を行う「DBS事務の専門窓口」として、不可欠な存在となります。
煩雑な事務作業を専門家に委ねることで、事業者は「こどもと向き合う」という本来の業務に集中し、真の意味での安全確保を実現することができるのです。
- Q事務員に任せることはできませんか?
- A
可能ですが、相当な負担とリスクを伴います。特に「機微な個人情報(犯歴)」を扱うため、内部の職員に見せること自体がプライバシー上のリスクになる場合もあります。守秘義務のある外部の専門家(行政書士)を「情報管理責任者」のサポート役として入れることを強くお勧めします。
- Q顧問契約をしていないスポットの依頼でも対応してもらえますか?
- A
はい、可能です。「規程作成のみ」「導入時のシステム登録のみ」といったスポット依頼も承っております。ただし、継続的な監査や年次報告まで含めた顧問契約の方が、長期的なリスク管理としては安心です。
- Qまだ施行前ですが、いつから相談すればいいですか?
- A
「今すぐ」の準備をお勧めします。施行直前(2026年後半)は、全国の事業者が一斉に動き出し、システム登録や専門家の予約が殺到することが予想されます。余裕を持って規程類を整備できる今が、相談のベストタイミングです。



