はじめに:その「犯歴チェック」どこまで確認できる?
2026年12月に施行される「こども性暴力防止法(日本版DBS)」。 「採用時に前科をチェックする制度」と聞くと、あらゆる犯罪が対象になると思われがちですが、実はそうではありません。
日本版DBS(こども性暴力防止法)は、憲法が定める「職業選択の自由」とのバランスを考慮し、確認できる範囲を「特定の罪種」かつ「特定の期間」に厳格に限定しています。本記事では、実務担当者が知っておくべき「犯歴照会の境界線」を解説します。
1. 確認されるのは「特定性犯罪」に限定される
日本版DBS(こども性暴力防止法)で確認されるのは、法第2条第7項で定められた「特定性犯罪」のみです。窃盗、詐欺、傷害といった性犯罪以外の前科があったとしても、システム上は「犯罪事実なし」と回答されます。
- 刑法犯: 不同意わいせつ、不同意性交等、監護者わいせつ・性交等、16歳未満の者に対する面会要求等 など
- 特別法犯: 児童福祉法違反(児童淫行)、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、性的姿態撮影等処罰法(撮影罪)違反 など
🚨 痴漢や盗撮(条例違反)も漏れなく対象
実務上、極めて重要なのが「迷惑防止条例違反」の扱いです。 電車内での痴漢や盗撮は、多くの場合、都道府県の条例で処罰されます。これらは法律上の刑法犯ではありませんが、日本版DBS(こども性暴力防止法)では「特定性犯罪」に含められます。政令で一括指定されるため、全国どこの条例違反であってももれなく確認対象となります。
2. 「前科」の範囲(不起訴や逮捕歴はどうなる?)
日本の法制度(推定無罪の原則等)の下では、有罪が確定していない情報を就業制限の根拠とすることは困難です。そのため、確認対象は以下のように厳格に区分されています。
| 🔴 対象になる(通知される) ・拘禁刑(懲役・禁錮/執行猶予含む) ・罰金刑 | 🔵 対象にならない(通知されない) ・警察に逮捕されたが「不起訴」になった ・示談が成立し「起訴猶予」になった ・現在裁判中である |
| 裁判で有罪が確定した事案 | 有罪が確定していない事案 |
3. 「刑の重さ」で変わる照会期間(20年・10年)
過去に特定性犯罪を犯した者は「特定性犯罪事実該当者」と呼ばれます。 一生涯の就業制限は憲法上難しいため、日本版DBS(こども性暴力防止法)では「非常に長いが、期限はある」という独自のルールが設けられました。
| 🛡️ 拘禁刑(実刑)の場合:20年間 | 💰 罰金刑の場合:10年間 |
| ・ 期間:刑の執行を終わった日から「20年」 ・ 対象:特定性犯罪について拘禁刑を言い渡す裁判が確定し、刑務所に服役したケースなど。 | ・ 期間:刑の執行を終わった日(罰金を完納した日)から「10年」 ・ 対象:痴漢や盗撮(迷惑防止条例違反)などで、罰金刑が確定したケースなど。 |
⚠️ カウントダウンの「起算点」に注意!
実務上、最も間違えやすいのが「いつから数えて20年(10年)なのか」という点です。
【例:懲役3年の実刑判決を受けた場合】 判決確定から3年間服役し、刑期が満了した日から「20年」がスタートします。つまり、判決確定から数えると実質「23年間」は対象として扱われます。
4. 期間経過後の回答と事業者の心構え
上記の期間(20年または10年)が経過した場合、システムからは「特定性犯罪事実該当者であると認められない」という結果が交付されます。
この回答は、あくまで「所定の期間内に確定した性犯罪の前科がない」ことを示すに過ぎません。以下のリスクは依然として残ることを忘れてはいけません。
- 性犯罪以外の重大犯罪(強盗や殺人など)の前科
- 逮捕歴や不起訴になった事案
- 20年(罰金なら10年)以上前の古い犯歴
まとめ:システムは「万能」ではない
「犯歴なし」の結果を盲信せず、採用時の丁寧な面接、就業規則によるルールの徹底、そして密室を作らない環境整備(安全確保措置)。これらをセットで運用して初めて、こどもたちの安全は守られます。
- Q条例違反(痴漢など)で罰金5万円を支払った場合も、10年間は通知されますか?
- A
はい、通知されます。日本版DBSでは、罰金の金額に関係なく「罰金以上の刑」が確定していれば、完納から10年間は対象者として捕捉されます。
- Q昔の「懲役」や「禁錮」は今の「拘禁刑」と同じ扱いですか?
- A
はい、同じ扱いです。刑法改正により懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されましたが、過去の判決であっても同様に20年の照会期間が適用されます。


