はじめに:今のデータベースだけでは防げないの?
2026年12月に施行される「日本版DBS(こども性暴力防止法)」。 すでに教員や保育士の処分歴を確認するデータベースが存在する中で、「何が新しいのか?」「海外の制度と同じなのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。
結論から言うと、既存の仕組みだけではこどもたちを性暴力から守り切れない「死角」が存在したため、この新法が生まれました。
本記事では、こども家庭庁のガイドラインに基づき、既存データベースの死角を日本版DBSがどうカバーするのか、そして海外制度と比較した際の「日本独自の仕組み」について解説します。
1. 既存の「教員・保育士データベース」が抱えていた3つの死角
現在、教育や保育の現場では、教員や保育士を対象としたデータベースが運用されています。しかし、これらは国家資格の「行政処分歴」を管理する仕組みであり、実務上、以下の「死角」がありました。
- 死角 1「資格」を持たない従事者はノーチェック教員免許や保育士資格を持たないスクールバスの運転手、事務職員、学習塾の講師などは、既存のデータベースでは確認の対象外でした。
- 死角 2「行政処分(免許失効等)」が前提既存のデータベースに登録されるのは、懲戒処分等で免許が失効したり、登録が取り消されたりした人です。刑事事件として罰せられても、行政処分を受ける前に自ら退職した場合や、そもそも無資格者が逮捕された場合は、データベースに記録されません。
- 死角 3照会できる事業者が限定的教員や保育士のデータベースは、学校や認可保育所などの行政・所轄庁を中心に利用されており、学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者が採用時に広く確認することは困難でした。
2. 死角を塞ぐ「日本版DBS」の3つのアプローチ
日本版DBSは、これらの死角を埋めるため、全く新しい設計思想で構築されています。
| 既存のデータベース | 日本版DBSの新しいアプローチ |
| 【対象者】 「有資格者」のみ | 【① 資格ではなく「業務の実態」で判断】 資格の有無に関わらず、「支配性・継続性・閉鎖性の3要件」を満たす環境でこどもに接するすべての人が対象。アルバイトやボランティアも含まれます。 |
| 【確認内容】 「行政処分歴」 (免許の失効など) | 【② 対象情報は「特定性犯罪の前科」】 法務省に照会して確認する「特定性犯罪の前科」です。不同意わいせつ罪などに加え、各都道府県の迷惑防止条例違反(痴漢・盗撮等)も対象。執行猶予や罰金刑も捕捉されます。 |
| 【利用者】 学校や行政中心 | 【③ 民間事業者も「認定」で利用可能に】 学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者も、国の基準を満たして「認定事業者」となることで、システムを利用して犯歴確認ができるようになります。 |
3. 本家イギリス等と異なる、日本版DBSの「3つの独自性」
「DBS」という名称はイギリスの制度に由来しますが、日本の法制度や憲法(職業選択の自由など)に合わせて独自の進化を遂げています。海外制度と比較した際、日本版DBSには際立った3つの特徴があります。
諸外国の制度では暴力や窃盗など幅広い犯罪歴が対象となる場合がありますが、日本版DBSは「特定性犯罪」に限定しています。これは、こどもの心身に生涯にわたる重大な影響を与える性暴力の防止にフォーカスした結果です。
イギリスでは国が「就業禁止リスト」を作成して法的に就業を禁じますが、日本では国は「犯罪事実確認書」を事業者に交付するのみです。その結果を受け、対象業務から外すといった「防止措置」を講じるのは、各事業者の責任とされています。
日本版DBSでは、特定性犯罪前科がある場合、事業者に結果が交付される前に「まず従事者本人にのみ事前通知」がなされます。本人は2週間以内に訂正請求を行ったり、内定辞退等を前提に確認手続の「中止要請」を行ったりすることができます。事業者に犯歴を知られる前に自ら選考を降りることが可能な、厳格なプライバシー保護の仕組みです。
まとめ:既存DBとの「併用」で多層的な防衛線を
日本版DBSは、これまでの死角を埋める画期的な制度ですが、万能ではありません。
日本版DBSは「刑事事件(前科)」を捕捉しますが、刑事事件に至らなくてもセクハラ等で懲戒処分を受けた者は、既存の教員・保育士データベースでしか捕捉できない場合があります。 そのため、ガイドラインにおいても、教育職員や保育士を採用する際は、以下の「二段階の手続」が明確に定められています。
- [ ] 内定前: 既存のデータベースを活用し、行政処分歴を確認する
- [ ] 内定後: 日本版DBSで犯罪事実確認(前科チェック)を行う
事業者の皆様は、「日本版DBSによる前科チェック」「既存DBによる行政処分歴チェック」「面接等での経歴の深掘り」という多層的な防御壁を築き、こどもたちの安全を守る体制を構築していきましょう。
- Q民間事業者(学習塾など)は既存のデータベースを使えないのですか?
- A
はい、原則として使えません。既存の教員・保育士データベースは、各資格の所管省庁や自治体が行政処分歴を管理するためのものであり、一般の民間事業者が自由に照会できる仕組みではありません。だからこそ、民間事業者も利用できる日本版DBS(認定制度)の導入が必要とされたのです。
- Q執行猶予がついた場合や、罰金だけで済んだ場合もバレますか?
- A
はい、記録されます。拘禁刑(懲役・禁錮)だけでなく、執行猶予付きの判決や罰金刑であっても、法で定められた一定期間(刑の消滅期間等に基づく)は対象として捕捉され、事業者に通知される仕組みになっています。
- Q痴漢や盗撮などの「条例違反」も日本版DBSの対象になりますか?
- A
はい、対象となります。不同意性交等罪などの重罪だけでなく、各都道府県の迷惑防止条例違反(痴漢・盗撮等)も、子どもを対象とした性暴力につながる恐れがあるとして「特定性犯罪」に含まれ、照会の対象となります。
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